磁気記録媒体(HDD、磁気テープ、フロッピーディスクなど)への記録は、実際どうなっているのか、また、その密度は?

query_builder 2026/11/05

A.記録の仕組み

 磁気記録媒体は、磁性体の微小な領域の磁化の向きに情報を書き込む仕組みです。方式は大きく「記録の向き」と「信号の符号化」の2つの観点で整理できます。

1. 基本原理

 磁気記録媒体(HDD、磁気テープ、フロッピーディスクなど)の表面には、微小な磁石の粒(磁性粒子)が敷き詰められています。

  • 書き込み:磁気ヘッドのコイルに電流を流すと磁界が発生し、その下を通る媒体の磁化の向きを変える。電流の向きを反転させれば、磁化の向きも反転する。

  • 読み出し:媒体が動くと、磁化の向きが変わる境目(磁化反転)から漏れ磁界が生じる。これを磁気ヘッドで検出し、電気信号に戻す。HDDではGMR(巨大磁気抵抗)やTMR(トンネル磁気抵抗)素子が使われる。

 情報は「磁化の向きそのもの」ではなく、**「磁化の向きが変わる場所(反転)」**で表現するのが一般的です。

2. 記録の向きによる分類

水平(面内)磁気記録方式(LMR)

 磁化の向きが媒体の表面と平行。隣り合うビットの磁化がN極同士・S極同士で向き合うため、記録密度を上げるほど反発し合って磁化が不安定になります。

←→ ←→ →← ←→

(表面に沿って寝た向きの磁石)

垂直磁気記録方式(PMR)

 磁化の向きが媒体の表面と垂直(上向き・下向き)。隣り合うビットが互いに安定する向きに並ぶため、高密度化に有利です。2005年頃からHDDで主流になりました。

↑ ↓ ↑ ↑ ↓

(表面に対して立った向きの磁石)

さらなる高密度化技術

  • SMR(瓦記録):トラックを瓦のように重ねて書き、トラック密度を上げる。

  • HAMR(熱アシスト記録):レーザーで局所的に加熱して保磁力を下げ、書き込む。

  • MAMR(マイクロ波アシスト記録):マイクロ波で書き込みを補助する。

3. 信号の符号化方式(0と1の表し方)

 磁化の向き(上/下)と、デジタルの0/1の対応づけにもいくつかの方法があります。

方式

表し方

RZ(Return to Zero)

1のときだけパルスを出し、その後無磁化に戻す

NRZ(Non Return to Zero)

磁化の向きそのもので、上向き=1、下向き=0と表す

NRZI

1のときに磁化を反転させ、0のときは反転させない

FM / MFM / RLL

反転の間隔を制御し、クロック情報を含めつつ密度を上げる方式

 現在は、反転間隔に制約をつけて効率よく記録するRLL(Run Length Limited)系の符号や、読み出し時の誤りを統計的に補正するPRML(Partial Response Maximum Likelihood)方式が使われています。

4. 具体例:HDDでの流れ

  1. データを符号化(RLLなど)し、誤り訂正符号を付加する

  2. 書き込みヘッドの電流方向を切り替え、ディスク上の磁化を反転させて記録する

  3. 読み出し時はヘッドが磁化反転を検出し、PRMLで0/1を判定する

  4. 誤り訂正を行い、元のデータを復元する


B.どの程度の密度分布になるのか?

「密度分布」は、記録密度(面記録密度) と、その内訳である線記録密度・トラック密度のことと解釈して説明します。

1. 記録密度の基本

 面記録密度は、次の2つの積で決まります。

面記録密度 = 線記録密度(BPI)× トラック密度(TPI)

  • BPI(Bits Per Inch):1本のトラック上で、進行方向に何ビット並ぶか

  • TPI(Tracks Per Inch):半径方向に何本のトラックが並ぶか

  • 単位は Gbit/inch² または Tbit/inch² で表します。

2. 年代ごとの面記録密度(HDDの例)

時期

方式

面記録密度の目安

1956年 (IBM RAMAC)

水平

約2 kbit/inch²

1990年代前半

水平

約0.1〜1 Gbit/inch²

2000年頃

水平

約10〜30 Gbit/inch²

2005年頃

垂直への移行期

約100〜200 Gbit/inch²

2010年代

垂直(PMR、SMR)

約500〜1000 Gbit/inch²

2020年代

PMR/SMR、一部でHAMR等

約1〜1.5 Tbit/inch² 前後

約70年で約10億倍に高まったことになります。

3. 現在の密度の内訳(概算)

 面記録密度を約1.5 Tbit/inch² とすると、典型的には次のような値になります。

  • 線記録密度:約2,500〜2,800 kBPI(1インチに約250万ビット)

  • トラック密度:約500〜600 kTPI(1インチに約50万トラック)

 これを長さに換算すると、

  • ビット長:約10 nm 程度

  • トラック幅(ピッチ):約45〜50 nm 程度

となり、1ビットの大きさは約10 nm × 50 nm という極めて小さな領域です。1ビットあたり数十個程度の磁性結晶粒(粒径約7〜8 nm)が含まれる計算になります。

4. 密度分布が一様でない点

 実際のディスク上では、密度は完全には一様ではありません。

  • ゾーンビット記録(ZBR):外周は円周が長いので、外周ほどセクタ数を多く割り当てます。ディスクの回転数は一定なので、外周ほどデータ転送速度が高くなります。

  • 線記録密度はほぼ一定、角度あたりのビット数は外周で多い:ゾーンごとに段階的に密度を調整しています。

  • 内周側は密度の限界がある:円周が短く、角速度の影響や信号品質の制約があります。

5. 密度の限界

 密度を上げる際の壁は、超常磁性限界(熱ゆらぎで磁化が自然に反転してしまう限界)です。粒子が小さくなると熱に弱くなるため、

  • 保磁力の高い材料(FePtなど)を使う

  • 書き込み時にレーザーで加熱する(HAMR)

といった対策が必要になります。HAMRでは2〜10 Tbit/inch² 程度が将来の目標とされています。

6. 他の記録媒体との比較

媒体

面記録密度の目安

磁気テープ(LTO)

約10〜20 Gbit/inch²(最新研究で数百 Gbit/inch²)

HDD

約1〜1.5 Tbit/inch²

光ディスク(Blu-ray)

約15〜25 Gbit/inch²

 HDDは、磁気テープや光ディスクと比べて1〜2桁高い密度を実現しています。



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